2009年08月02日

キューバの医療

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 札幌病院の細川誉至雄副院長がキューバ政府からの要請で今年3月にキューバを訪問しました。日本キューバ科学技術交流委員会が主催した企画で、先生を含め日本から5人の呼吸科医(内科3、外科2)が参加し、肺がんの診断法や治療について交流しました。(2回に渡って掲載します)

■北海道とキューバの比較

 キューバはカリブ海に浮かぶ最大の細長い島国です。米国からもフロリダ半島から約145km (札幌と富良野くらいの距離) と近い位置にあります。

 キューバと北海道を比べてみましょう。面積は北海道の約1.4倍、人口は約1100万人で、北海道の2倍。首都ハバナには220万人と人口の約5分の1が住んでいます。北海道も札幌に人口が集中しており似たところがありますが、キューバは暖かい国で、パンなどの生活必需品は配給されますので餓死することはありません。1年中温暖な気候のため凍死することもありません。沖縄の人が同じ時期に行くとやや涼しい、と感じるそうで1年中過ごしやすい気候のようです。

キューバと北海道の比較

■「シッコ」でも紹介された

キューバの医療については2007年に上映されたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」によってアメリカの悲惨な医療制度と比較する形で紹介され、また昨年はマスコミでもたびたび報道されたためキューバ医療を知った方もいるかと思いますが、私の体験を紹介したいと思います。

 キューバではがんで亡くなる方が増えており、特に肺がんで亡くなる方がかなりの割合を占めています。私は今回INOR(キューバ腫瘍学・放射線生物学研究所)を訪問し、呼吸器疾患・胸部外科専門医らと2日間、回診やカンファランス、手術に立ち会ってきました。もう1日はポリクリニコ(総合診療所)を見学し、身体障害者施設も訪問しました。ファミリードクターの診療所見学も予定していましたが時間がなく残念ながら見学できませんでした。

■教育や医療は無料

 フィデル・カストロ率いる革命軍が社会主義国家を建設して以来、教育や医療に力を入れてきました。

 キューバでは 「貧しい国民として生きるけれども金持ちの国の国民のように死ぬ」と言われています。国民1人当たりの所得は日本の10分の1程度ですが、平均寿命は米国と同じくらいで、死因は心臓病やがんが多く先進国と大差ありません。しかし、大きな違いは教育や医療は無料で受けることができるということです。簡単に説明すると、病院にかかるのに保険証はいらない、会計もなしです。薬代だけは安いですが少しかかるそうです。そしてさらに注目すべきことは、どんな田舎であっても約800人前後の人口に対し1人の医師(人口比世界1位)と1人の看護師が配置され住民の健康管理が行われていることです。医療水準もWHOの評価によれば先進国並に高く評価されています。

■キューバの医療制度

 キューバ医療の基盤はファミリードクター制(日本では開業医がこの役割を担っているが) で1984年に始まったシステムです。住民約800人当たり一人の医師が配置され、そこに住んで、午前は診療、午後は往診し主に予防を中心として医療活動をしています。その上にポリクリニコ(総合診療所)が約500、さらにその上にホスピタル(総合病院)が213あり、それぞれのレベルに応じてより高度な医療を受け持っています。がんや心臓移植などの高度先端医療は14ある研究所で対応しています。私たちが訪問したINORはがん治療の専門病院です。日本で言えば築地の国立がんセンターに相当します。キューバ厚生省もがん対策がキューバの健康問題の最重要課題と位置づけています。私たちがINORに呼ばれたのはそんな理由からです。
(8月号につづく)

北海道勤医協友の会新聞 2009年7月1日号より

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 INOR(キューバ腫癌学・放射線生物学研究所)には全国から肺がん患者が紹介されてきます。しかし、その多くはすでに進行しており、手遅れとなってしまう場合がほとんどです。キューバでは肺がんについては、検診制度がないため発見が遅れてしまうのが原因だと思います。前回は進んだ医療制度について紹介しましたが、今回はキューバ医療が抱えている問題などを紹介します。 (7月号のつづき)

■熱心な医師たち

 INORは胸腔鏡手術(カメラを使っての手術)を本格的に導入するため、私たちに技術指導を依頼してきました。初日は病棟回診と患者さんの検討会議、そして翌日に、ドイツから届いたばかりの新しい胸腔鏡を使って患者さんの検査の実演後、日本から派遣された呼吸器科医師5名が講演を行いました。

 私が与えられたテーマは「日本での進行肺がんに対する手術術式」 でした。日本の学会で好評でしたので、勤医協で行ってきた手術を主にビデオを使用して紹介しました。説明するにあたってキューバでの医療技術レベルがわからなかったので心配でしたが、50名以上のキューバ人医師(みな比較的若く、女性も多い) が熱心に聞いてくれ、講演終了後には、スペイン語で次つぎと質問され大変でしたが、通訳(日本で研究中のキューバ人女性で、この日のためにキューバに呼び戻された) が日本語で瞬時に伝えてくれたので助かりました。

■経済封鎖による医療への影響

 キューバは米国による経済封鎖のため十分な医療器具が整備されておらず、私たちが様ざまな医療器材を使用して行っている手術を、行いたくてもできないのが実情です。今でも勤医協で30年前に使っていた医療機器や、手術用の糸もすべりが悪い使用しっらいものが使われていました。

 レントゲンフイルムも一枚一枚現像液に浸して現像しています。これも日本では25年以上前に行われていた方法です。よって現像されたレントゲンの画質は非常に悪く、早期の肺がんを見つけることは容易ではありません。しかし、そのような環境でもINORでは多くの肺がん手術が安全に行われており、高度な医療技術があると感じました。ファミリードクター制などの医療制度やワクチンの開発、予防医学、先端医療では高い評価を受けているキューバ医療ですが、肺がんの問題だけを見ても多くの課題を抱えています。しかし、課題を解決するための意欲と熱意は大変高いと感じました。アメリカの経済封鎖が解除されれば日本の医療の水準にすぐ追いついてくるという印象をうけました。

■収入よりも理想を

 INORの医師の給料は20ドル(約2千円)くらいで、一般の人より少し高い程度です。医師はキューバではなりたい職業のひとつとなっているそうです。それはキューバ人は高い収入より社会的に尊敬されることを大事にすることが理由のようです。キューバ人は長い間、奴隷を強いられ、解放された後もスペインや米国の植民地として支配されていました。自由で平等な祖国を築くために戦い死んだホセマルティはキューバのみならず中南米の英雄です。彼の「人間を大切に」との思想がキューバの教育・医療に今も生き続けていることをあらためて感じました。

 必ずしも高度な医療が受けられるわけではないなど問題はありますが、貧しくても分かち合い助け合うというキューバ人の思いやり・助け合いの精神を学びました。

■私たちがめざす医療

 昨年末からの金融危機で、世界中は暗い話ばかりです。米国では、家を失い、失業によりテント生活者が急増しているそうです。日本も「年越し派遣村」に見られるように経済危機による困窮者は急増し、病院にかかれない患者さんが増えています。

 私たちが加盟する民医連は戦前から 「誰もが、いつでも、どこでも」良い医療を受けられることをめざしてきた医療機関の団体です。今も個室料金は取らない、医療費が払えない状況の患者さんに対し無料・低額診療を推進しています。キューバは民医連が目指している医療を実践している国ではないかと思いました。

 友の会の皆さんとともに安心して医療が受けられる地域づくりができることを願っています。

キューバの子どもたちは「国の宝」

(北海道勤医協友の会新聞 2009年8月1日号より)




posted by kin-ikyo at 17:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 医療トピックス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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