2008年06月30日

勤医協中央病院にて

脳の病気を追いかけて(4)勤医協中央病院にて

 2006年4月、脳神経疾患の診療を専門としてきた私にとって大変ショッキングな出来事が起きました。勤医協中央病院(札幌市)脳神経外科の閉鎖です。

 当時科長をしていたT先生が家庭の事情で故郷へ帰られ、後任が確保できぬまま閉鎖に至りました。私が科長に復帰して…などという考えも脳裏を横切りましたが、手術を離れて十年、断念せざるを得ませんでした。

 中央病院は2000年度以降、時代と地域の動向に合わせ、計画的に診療機構の改定を実施してきました。療養病棟(2000年)、総合診療病棟(02年)、回復期リハビリ病棟(同)、救急診療部(03年)、救急病床(06年)、緩和ケア病棟(07年)などの開設です。

 それは科を越えた横断的な診療機能強化策でした。入院件数も18.8%僧(2000年→07年)と伸ばすことができました。同時期に「DPC診療報酬制度」「7対1看護」などの導入と合わせて赤字状況を克服(07年度利益率5.5%)し、経営的にも前進することができました。

 しかし各専門診療科の発展は必ずしも実現せず、弱体化した診療科もあり心を痛めました。特に脳神経外科の閉鎖、神経内科の入院中止など脳神経疾患の診療が後退し、責任を痛感しています。

 脳神経外科が閉鎖となって2年、今でも脳卒中を中心に急性期脳疾患患者が毎月10人以上受診・搬送されてきます。近隣の病院へお願いすることも多いわけですが、個人的には断腸の思いです。これからまた少しでも前進しなければ…と思っています。

 さしあたり回復期・慢性期の診療充実、認知症診療、リハビリ医療体制の充実を柱に診療を発展させることが期待されます。そしていつの日か再び、急性期脳神経疾患を診療する部門が開設されることを夢見ています。

 私も、若い世代の登場の邪魔をしないよう控えめに、当院における脳神経疾患診療の発展に努力したいと思っています。(完)

(しんぶん赤旗 2008年6月28日 北海道のページ『エゾマツの小径』より)





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2008年06月25日

早期治療する意味

脳の病気を追いかけて(3)早期治療する意味

 年を取ると物忘れがすすみます。「自分は認知症では?」と心配になった時、どんな診察や検査を受けたらいいのでしょうか。

 私はまず、「長谷川スケール」「ミニメンタルステート検査」など簡易知能テストをお勧めしています。MRI検査などは初期認知症では異常を示しませんが、脳疾患の幅広い診断法として有用で、お勧めします。

 簡易知能検査では25〜26点(30点満点)を取れて初めて安心できます。23〜24点以下が出ると、「軽度認知機能障害」と診断されることがあります。いくつかの検査を経て、「初期認知症」と診断されると治療に入ります。

 まず服薬。アリセプトという薬は、試してみる価値があります。有効率はそう高い薬ではないのでがっかりすることもありますが、試してみる価値があります。次に生活の「改善」です。あまり外出もしない、社会活動もほとんどない、起床も食事も不規則など、だらしのない生活になっていませんか。脳を鍛えるトレーニング、脳のリハビリテーション的取り組みも大切です。

 認知症の治療は発展途上であり未成熟です。治療薬として各種のものが準備されていますが、残念ながら「夢の治療薬」には程遠いものです。アミロイド蛋白(たんぱく)を免疫力で抑制する“ワクチン療法”はまだ相当先の話でしょう。

 抗認知症効果をもつ食物の研究ではイワシなど青魚(DHA)、赤ワイン(ポリフェノール)、カレースパイス(クルクミン)、緑茶(カテキンなど)、コーヒー(トリゴネン)などが話題となっています。楽しみなテーマですが、やはりまだ探究の途上です。

 さて認知症の治療とは必ず限界がある、ということを理解しなければなりません。老化と並行してすすみますので、有効と思われた薬もやがて効果がなくなります。認知症の進行は不可避です。私は認知症の薬の価値を「人生の始末をする時間的猶予を与えてくれる」というところに見いだしています。

 その期間は数年から長くても十年以内でしょう。おそらく早期ほど有意義な期間が延びると思われますが、大切な期間を充実してすごせるよう、個人としても社会保障政策としても「高齢期の新しい生活のあり方」を探求することが大切です。

(しんぶん赤旗 2008年6月21日 北海道のページ『エゾマツの小径』より)
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2008年06月14日

脳卒中を防ぐ知恵

脳の病気を追いかけて

 太平洋戦争の始まる1941年の夏、無医村で巡回診療をしていた藤井敬三医師(勤医協中央病院初代院長・故人)は、占冠村で不思議なことに気付きました。「この村にはなぜ高血圧の人がいないのだろう?」

 先生は考えた末、「ここの農民は米を食べずに雑穀を主食としていた。それがため高血圧が少ないのである」と結論づけました(藤井敬三著『かたくりの花』)。

 それから十年後、雑穀の健康食としての意義が見直されました。マグネシウムなどミネラルが豊富で、高血圧を防ぐ効果がある、と。同じころ、さまざまな食品が脳卒中予防に有用なことがわかりはじめました。藤井先生の発見と探求は、エスキモーの人びとに脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞が起きない秘密が主食の魚にあることを突き止めた、ダイアバーグの有名な研究の30年も前のことでした。

 さて脳卒中(脳出血・脳梗塞など)は、運動麻痺(まひ)、言語障害、認知症などの後遺症を残す恐ろしい病気です。この脳卒中、いまでは高血圧など慢性成人病(生活習慣病)を克服し、食生活などを改善させることで予防できることが証明されています。

 最も危険なものは高血圧と不整脈です。高血圧がしっかり治療されると脳出血も脳梗塞も大幅に減少します。不整脈はタイプにより危険性が異なりますので医師の指示が重要です。

 糖尿病と高脂血症も危険因子で、動脈硬化を引き起こすと同時に体が血栓体質(血小板凝集能が亢進=こうしん=した体質)になってしまいます。この血栓体質を防ぐために、イワシなどの魚(EPAなどが含まれる)、たまねぎなど辛い野菜 (ピラジン)が抗血栓食品としてお勧めです。また適度な運動、これも大切です。

 私の患者さんで、日ハムのホームゲームをほぼすべて観戦に行くという方がいます。「札幌ドームは階段が多く、稲葉ジャンプもあり運動になります。本当に元気になりました。ただひざを痛めましたがね」と。スポーツ観戦には、いろいろと良いものが詰まっているようです。  

(しんぶん赤旗 2008年6月14日 北海道のページ『エゾマツの小径』より)
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2008年06月10日

頭脳を鍛えよう

脳の病気を追いかけて1

 さあ、みなさん、脳を鍛えましょう。脳科学の進歩に支えられて、脳を活性化させるトレーニング法が提唱されるようになりました。一番効果がある方法は「文章の音読」と「簡単な計算問題をたくさん解く」です。

 次に効果が期待できることは「読書」「料理」そして「漢字の書き取り」などでした。一方、無効なものは「テレビを見る」「テレビゲームをする」「音楽を聴く」「漫画を読む」などでした。テレビや音楽は脳をリラックスさせることと理解すべきでしょう。(以上 川島隆太東北大学教授の研究です)

 さて脳を「鍛える」うえでもう一つ大切なことがあります。それは「新しい事に取り組む」ということです。

 昔親しんでいたことに再び取り組んでも、脳の中では「思い出の神経回路」が活性化するだけで新たな脳の活性化は得られません。失敗しながら繰り返し、考えては試し、徐々に上達する。この練習の過程でこそ脳全体が活発に活動し鍛えられます。さあ、みなさん、一歩踏み出し、新しい事に挑みましょう。

 いま脳を活性化させる人間行動の研究は、脳の活動を画像で観察する「機能的MRI」や、近赤外光を使って脳の活動状況を調べる「光トポグラフィー」などの機器を用いて行われています。

 特に「光トポグラフィー」は行動している人間の検査が可能になり、最近、リハビリテーション医療の現場で使用され、注目されています。

 「光トポグラフィー」でモニタ−しながらリハビリ訓練を実施すると、その訓練で脳の活性化が起きているのかどうか、ある程度判定できると考えられています。

 脳卒中などで障害された脳では、神経細胞同士の新しい結合(シナプスの再生)が機能回復を促進すると考えられています。シナプスの再生によって、障害を受けていない部分で脳機能が代謝され、機能回復につながるのです。それを促すような訓練法の開発と実施が可能となりつつあるといえましょう。

 私たちの病院でもいつの日か「光トポグラフィー」を導入できるよう期待しています。(一台7800万円なり!)


(しんぶん赤旗 2008年6月7日 北海道のページ『エゾマツの小径』より)
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