
私の住むウエノ島は、毎日長い時間停電があります。テレビ放送や新聞の発行はなく、ウエノ以外の島には電気もありません。電気のない島では、石のカマドで薪やヤシの枯葉を燃やして炊事をします。
パンノキという子どもの頭くらいの大きな果実が、チューク人の主食のひとつです。パンノキは、タロイモやバナナ、タピオカ、マンゴーなどと並ぶ主要な作物で、植えてから五年ほどで大きな木に成長し、たくさんの実がなります。皮をむいた実をゆで、それを臼で搗いてパン餅をつくり、タロイモの葉に包みます。パン餅は現地語でコンとよばれる保存食で酸味があって食べにくいですが、新鮮なものは甘くないサツマイモのようでおいしい。
長い間のローカルフードや、マグロ、近海の魚を食べる伝統的な生活が、第二次世界大戦後はアメリカ的消費生活様式に変化しました。鶏肉やターキーテール(七面鳥の尾)、スパムなどの肉の缶詰、米やインスタントラーメンなどの輸入食材に頼っています。
外来の患者さんの6〜7割は肥満です。高校生までは少ないのですが、20代から太り始めます。しかし肥満は「食生活の豊かさを示し、美しい」として好まれます。ちなみに2007年の州立病院の患者さんの死因は、糖尿病、ガン、高血圧、心筋梗塞、肺炎、栄養不良、心臓病、慢性閉塞性肺疾患、肝硬変、怪我、自殺、敗血症、未熟児の順でした。
ヨイチという日本名をもつテクニシャンは、相撲取りのような立派な体格をしています。彼は高校を卒業後、昨年3ヵ月間パシフィックパラメディカルトレーニングセンターというニュージーランドの教育施設で生化学の教育を受け、現在はオリンパスの生化学自動分析器を担当しています。週末には自分の島のウドットに帰り、教会のミニスター(牧師)として島の人たちに聖書の話をします。
先日5人目の赤ちゃんが生まれ、私の名前からKEIKOと名づけられました。ヨイチによく似た大きな眼の元気な赤ちゃんで、生まれた翌日には母子ともに退院し島に帰りました。健やかに育ってほしいと心から思います。(中川恵子)

---
プロフィール
北海道勤医協で臨床検査技師として勤務。定年退職後、JICAのシニアボランティアとしてミクロネシア・チューク州に赴任中。
(民医連新聞2008年7月21日号より)
(終)