
午前8時45分、私はICU(集中治療室)を訪ねた。昨日乳がんの手術を終えた82歳の女性は、“痛みもなく、ぐっすり眠れました”と笑顔で迎えてくれた。
私は、弾んだ足取りで麻酔科外来に向かった。今日は、私が担当するペインクリニック(痛みの診療部門)の診察日。この外来では、通常の方法ではコントロールの難しい痛みの治療を扱っている。
帯状疱疹(たいじょうほうしん=ヘルペス)という病気がある。突然、胸、顔、腰下肢などの皮膚に発赤や小水疱が発生し、ときに激痛を伴う。この痛みは記憶として残り、神経痛として持続するのだ。この予防には、早期の神経ブロックが最も有効とされている。
神経ブロックとは、痛みを伝える神経に局所麻酔薬などを注入し、脳内への痛み刺激をブロック(遮断)する治療法で、熟練を要する。がんの痛み、難治性上・下肢痛や腰痛などにも使われる。レントゲン透視下でおこなうこともある。
通常は十数種のブロック法を用いるが、硬膜外ブロックは、特に頻用(ひんよう)されている。その他、鎮痛薬、抗うつ薬、漢方薬、レーザー、認知行動療法などを併用する。月・水・土曜の午前中が診療日だ。
話はそれるが、日本の麻酔科医は6200人(2006年)ほどで、全医師数26万人強の2.4%だ。欧米では、5%内外だから、日本では麻酔科医が不足の状態にあり、労働環境も厳しいものがある。この結果、手術制限をおこなう施設が増えているのだ。
日本の医師数は少なくとも数万人は不足しているという見方もある。低医療費政策が大きな要因である。
ことし4月に施行された「75歳以上医療制度」も、ねらいは国の医療費負担を減らし、国民負担を増やすことにある。アメリカ型医療をめざす日本の医療は、いま、危機的状態にあるのだ。小異を捨て、国民の力を集中させ、“病状悪化”を防ぐことが求められている。(完)
(しんぶん赤旗 2008年4月19日 北海道のページ『エゾマツの小径』より)
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