2008年07月25日

新刊紹介 人間の安全保障  高橋哲哉・山影進(編)

人間の安全保障

人間らしい生き方を探求

 「平和と共生の未来へ 国際社会の新たな理念に向き合い叡智を結集−東京大学の挑戦」と紹介されている本書は、東京大学院が「人間の安全保障」を研究の正式なプログラムに加えるにあたって書かれた、いわば「教科書」です。

そもそも「人間の安全保障」とは何か。「安全保障」というと、国と国との関係を思い浮かべますが、本書では、「人間らしい生き方を万人に保障するにはどうしたらよいか」を探求することだとして、多方面からの検討を行っています。

「人間とは誰?」「何故ジェノサイドがなくならないのか?」「読み書きと生存の関係」など文化的側面から、「貧困削減をめざす農業」「環境と向き合う知恵」、さらには「難民から学ぶ平和構築」「人間の安全保障の視点からの新しい日本外交」まで、まさに「人間らしい生き方」をめぐる多分野が取り上げられています。

編者である高橋哲哉氏は結びで沖縄の基地問題を取り上げ、「国家の安全保障」と沖縄の人々とのぶつかりあいを通して、「人間の安全保障」の具体的な内容を表現しています。さすがに「東大大学院の教科書」ではありますが、自分の興味ある項から読み始めることができ、新鮮な学問にふれることのできる1冊です。(晃)(東京大学出版会・2800円+税)

(北海道民医連新聞2008年7月1日号より)
ラベル:新刊
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2008年07月13日

新刊紹介 手から手へ 吉田三千代著

手から手へ
溢れるそれぞれの人間愛

 北海道からはじまり、全国に広がっている、発展途上国に「車いす」を届ける取り組みをご存知でしたか?輸送コストを押さえるため、海外旅行の際に、手荷物扱いでとして持参し、届ける工夫もしています。

 10年前の1998年、医学生がアジアの国々の医療福祉問題を見学し、その後NGOとの懇談の中で「車いすとビタミン剤を送ってほしい」といわれたことがきっかけでした。著者も加わり「飛んでけ!車いす」の会を作り、この10年で世界65ヵ国に1600台の車イスを届けています。

 戦争や内戦、福祉政策の欠陥なとがら、障害児・者が車いすを持ち、社会に進出していく基盤がない国が少なくありません。特にアメリカの侵略との戦いで大きな被害を受けたベトナムの人々へ送った数が多いそうです。

 車いすをただ届けるという一方通行ではなく、車いすを受け取る障害者に直接会い、その国のこと、障害者の生活や福祉制度などがわかる草の根の交流です。

 平和は互いの理解によって初めて保持されるといいます。届ける側や、受け取る側の思い、それそれ人間愛にあふれた交流が感動的に描かれています。著者は「途上国といわれる国から学ぶことは多い」と言います。(天) (共同文化社・1575円)

(北海道民医連新聞 2008年6月26日号より)
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2008年06月26日

新刊紹介 伊藤千尋著 活憲の時代 コスタリカから9条へ

活憲の時代
アフリカ沖に9条の碑!

 アフリカ大陸北西沖のカナリア諸島に日本国憲法9条の碑があるのをご存知ですか?テルデ市の「ヒロシマ・ナガサキ広場」にあり、1996年の除幕式には大勢の市民が集まり、ベートーベンの第9交響曲「歓喜の歌」が歌われたそうです。

 朝日新聞記者などとして永年海外で取材した筆者の講演集。世界の動きが見えてきます。憲法とは何か、海外ではどう位置づけられているのか、一人ひとりが活かしてきたのか…。違憲裁判原告の最年少記録が8歳の国もあるそうです。

 「平和と空気を輸出」し、100万人の難民を受け入れるコスタリカや反米化する南米、自立する欧州連合の姿なども描きます。「いいものだけど使っていないもの」とはじめた「9条着物っ娘」などユニークな日本での取り組みも紹介しています。

 お金が払えない患者を路上に捨てる米国医療を告発した映画「シッコ」を紹介する章では、ヨーロッパやキューバなどの医療制度の動きも触れ、どんな社会をめざすのかを考えさせてくれます。「映画を見るだけでなく、立ち上がって自分で社会を変えよう」と呼びかけているムーア監督の言葉も紹介しています。読んで楽しく、元気になれる一冊です。(天)(シネ・フロント社・999円+税)

(北海道民医連新聞 2008年6月12日号より)
ラベル:9条 憲法
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2008年05月26日

新刊紹介 伊藤真・長倉洋海 著 日本国憲法

日本国憲法 理想に向かう人類の英知

 平和憲法を守ろうと全国を行脚している伊藤真さん(「伊藤塾」塾長)と、フォトジャーナリスト長倉洋海さんの手になるユニークな「憲法読本」です。

 各条文の主旨、その条文が生まれた歴史的背景、論争点などを、伊藤さんがわずか400字前後で的確に表現し、長倉さんの写真が条文の背景にある歴史や人びとの思いなどへと想像力をかきたてます。

 ラオス・ルアンパバーンの山寺で瞑想する若い僧侶の写真は第19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」に添えられています。解説で、思想統制をして国民を戦争に駆り立てた日本の過去への深い反省から「外国には例をみない本条が生まれた」ことを知ります。

 雪をかぶった奈良のしだれ梅の写真は、第97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、…現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と響きあいます。寒さに凍える梅の花は「過去幾多の試練に堪え」てきた人びとの姿を思わせます。解説で伊藤さんは「人権を主張することは、今を生きる者の責任なのです」と私たちを激励します。

 写真を見ながら9条、25条以外の条文も考えてみてはいかかでしょうか。(天) (金曜日・1800円+税)
(北海道民医連新聞2008年5月22日号より)
ラベル:日本国憲法 憲法
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2008年05月23日

薄井雅子著 戦争熱症候群 傷つくアメリカ社会

戦争熱症候群新鮮な驚きと疑問 

新鮮な驚きと疑問 米国のイラク侵略から5年。今も、イラクでは多くの命が奪われています。イラク開戦時、米国に移り住んだばかりの著者は、戦争をしながら生活を楽める人びとに強い違和感を感じ、「戦争はいやだ、と実体験からいえる」日本人の戦争観、平和硯は「米国人の認識から一歩も二歩も先んじている」と断言します。

 そんな著者が、戦争熱に浮かされる米国社会と米国人を、新鮮な驚きと疑問をもって見すえています。

 権力によって英雄に祭り上げられた女性兵士救出劇の真相、対イラク戦争で米国内に何が起ったのか、なぜ米国人はこの戦争が「自由と民主主義のため」と信じ込まされたのか、なぜ権力はメディア操作までして戦争をしたがるのか? 戦争請負会社の存在や多国籍企業へのあからさまな便宜供与などの実態を紹介しながら、「戦争はやくざな金もうけ」であることをストンと納得させてくれます。

 イラク帰還後、PTSDに悩み自殺する多数の海兵隊員、その母の思いと反戦の取り組み、「もう戦争犯罪に加担しない」とブッシュ政権を痛烈に批判する軍人など、反戦に起ち上がる米国の姿も紹介しています。 平和憲法を持つ私たちの役割を深く考えさせてくれる一冊です。 (沢) (新日本出版社・1600円+税)

(北海道民医連新聞 2008年5月8日号より)
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2008年05月05日

新刊紹介 平和へのアクション101+2 メリーウイン・アシュフォード著

平和へのアクション102+2
世界に学ぶ平和実践法 
 毎日、世界のどこかで戦争が繰り返されています。 

 「結局戦争なんて無くならないんだよ」とあきらめ顔の人もいます。多くの人命が奪われる悲惨な戦争は、本当になくならないのでしょか?

 著者は、ノーベル平和賞を受けた核戦争防止国際医師会議の元会長。何が戦争の原因になっているのかを明らかにし、戦争や紛争を非暴力で回避した歴史を紹介したうえで、「女性の価値観を支持しよう」「多様性を歓迎しよう」「貧富の差を埋めよう」など、戦争のない世界をつくるための103項目を綴っています。項目ごとに見開きになっているので読みやすい構成。世界にはユニークな方法で平和活動をしている人々が大勢いることに励まされます。

 医師としての医学的な見かたで、戦争の原因や治療法、予防法、処方箋が書かれていてわかりやすく「戦争は病気の状態、予防ほど重要な取り組みはない」と訴えています。

 「非暴力は人間が自由に使うことのできる最も大きな力」というガンジーの言葉を引用し、「非暴力の行動は消極的でも臆病でもありません」と著者は言います。この力ならばいつでも使うことができます。平和への希望が持てる元気の出る一冊です。(渋)

 (かもがわ出版・2600円+税)



ラベル:非暴力 世界平和
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2008年04月04日

新刊紹介 ボローニア紀行 井上ひさし著

ボローニャ紀行
住民自治の素晴らしさ 

 「30年間の机上の勉強で、いまでは恋人よりも慕わしい存在となった」イタリアの街・ボローニャヘの賛歌です。

 氏の素描によると、ボローニャはミートソース発祥の地であり、ヨーロッパ最古の大学がある街(卒業生には、「神曲」のダンテ、コペルニクス、最近ではウンベルト・エーコなど)であり、第二次大戦では、市民が自力でナチスドイツ軍とファシストを追い出した街として知られ、さらに「ボローニャ方式」と呼ばれる都市再生の世界的モデルといわれています。

 氏はボローニャの街で多くの人に出会い、「ボローニャ方式」を生みだした精神の真髄に迫ります。曰く「過去と現在は一本の糸のようにつながっている。現在を懸命に生きて未来を拓くには、過去に学ぶべきだ」「自分が生きている場所を大事にしよう。そうすれば人は幸せに生きていくことができる」「困っている人がいたら、とりあえず手をさしのべる」等々。

 それにしても、「チャーチル首相をイタリア風にうんと柔らかくしたような顔」「マルチェロマストロヤンニを少し太らせて、頑丈にしたような」「天津焼栗そっくりの顔立ち」など、出会った人たちの容姿の紹介がまた楽しめます。 (晃)
 (文藝春秋・1190円+税)

(北海道民医連新聞2008年3月27日号より)

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2008年03月28日

新刊紹介 ひきこもりの若者と生きる 安達俊子・尚男 著

ひきこもりの若者と生きる
再生と自立への道 

 余市町に引きこもりの若者たちの社会的自立を支援している安達俊子・尚男さん夫婦がいる。二人とも元北星余市高校教師で、尚男さんは日本共産党元町議。2人が「ビバハウス」を立ち上げたのは2000年9月、きっかけは一人の卒業生からの「助けて」という訴えだった。この子を救うには一緒に住むしかないと退職金でプレハブの家を建てた。本書は7年間の歩みと実践を「ビバハウス便り」と対談でまとめたもの。

 対人恐怖症の子、自殺願望の子、10年間ひきこもっていた子、そんな若者たちが食事づくり、農作業、除雪ボランティア、ホームルームなどを通して、語りだし、学習意欲を持ち、バイトに出かけるまでに変化していく。学ぶこと、働くことが彼らの夢なのだ。

 10数人の若者たちに責任を持ちつつ共に暮らすことは生易しいことではない。引きこもる若者たちの実態がここまでリアルに語られた本を他に知らない。安達さん夫婦にとって「ビバハウス」は現代の日本社会ヘの挑戦なのだ。

 「苦悩する若者とそれを支える親たちの想像を絶する忍耐を知ってほしい」、「どんなに困難と思われる状況にある若者たちにも、必ず苦悩を乗り越える道はあるものだと知ってほしい」と2人は言う。(ふ)
(高文研1600円+税)

(北海道民医連新聞 2008年2月28日号より)
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2008年03月23日

新刊紹介 ルポ貧困大国アメリカ 堤未果著

貧困大国アメリカ民営化の無惨な結末 

 米国の後を追う日本へ海の向こうから警告する!

 「貧困ビジネス」の元祖アメリカ。住宅価格の高騰を当て込んで低所得者に高金利で融資するサブプライムローンが破綻し、更に増える新たなホームレス。

 米国の年間204万件に上る個人破産の半数以上が医療費の負担によるもの。一日入院して盲腸を手術すると200万円、入院出産の費用が160万円。貧困が病気をもたらし、病気が貧困を最貧困へと転落させる。民間保険会社が支配するアメリカの医療、これが日本が追いかけている明日の医療の姿だ。

 出口をふさがれた若者たちは軍に入るしか選択肢はない。イラクの戦場には派遣会社の労働者、戦闘を請け負う傭兵会社の兵士もいるが、彼らが死んでも戦死者に数えられない。派遣会社や傭兵会社の親会社をたどると大資本に行きつく。

 「国家的な貧困ビジネス=戦争」ほど儲かる商売はない。

 著者は米国野村証券證券に勤務中に9・11同時テロに遭遇し、以来ジャーナリストとして活躍している女性。この世界を動かす大資本の力はあまりにも大きいが、民衆の力」を信じ、あきらめさえしなけれぱ、次世代に手渡せるものは限りなく貴いと、新自由主義への抵抗を呼びかけている。(ふ) (岩波新書700円+税)

(北海道民医連新聞2008年2月14日号より)

NHKラジオあさいちばん「著者に聞きたい本のツボ」のサイトで
著者のインタビューが聞けます。(2008.05.29追記)

http://www.nhk.or.jp/radiodir/asa/book.html




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2008年02月08日

新刊紹介 わたしのリハビリ闘争 多田富雄
最弱者の生存権は守られたか

わたしのリハビリ闘争医療史上の一大汚点を告発 

 著者は元国際免疫学会連合会会長で、野口英世記念医学賞などを受賞した世界的な免疫学者。脳梗塞を患って以来、右半身麻痺と重度の嚥下障害、構音障害を抱え、リハビリを受けながら、かろうじて左手一本で執筆活動を続けてきた。

 ところが2006年4月の診療報酬改定でリハビリ日数制限・打ち切りという思わぬ事態が生じた。現場の実態を無視した医療費削減政策の暴走、弱者切り捨ての失政に怒った筆者は、新聞への投書を皮切りに闘いに立ち上がった。2ケ月の短時日に48万の署名が集まった。本書は1年余にわたる執筆・発言をまとめた闘争の記録であり、病床と車椅子の上から発せられた「命の叫び」である。

 リハビリは個別性と多様性が大きく、維時期のリハビリを「治療効果がない」と打ち切るのは、「糖尿病患者のインスリン、腎不全患者の透析を打ち切るような殺人行為に等しい」と著者は指摘する。公害自主講座で知られる宇井純氏や世界的社会学者の鶴見和子氏もその犠牲者となった。

 保険診療縮小の狙いは、民間医療資本と損害保険会社の営利のために、混合診療を導入して国民皆保険を崩壊させることにある。筆者は「君は忿怒佛のように今こそ怒らなねばならぬ」と身を震わせる。  

(ふ)(青土社 1260円)
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2007年12月24日

新刊紹介 しょげてんな!! 北星学園余市高等学校生徒編

しょげてんな!!

人を見抜く力に驚嘆

 書き手も編集も北星余市高校の生徒たち。在校生・卒業生15人の手記、これまでの卒業式の答辞3編、校内弁論大会優秀賞4編が収められています。

 出版のきっかけは、北星余市高校にきてからの自分の変化に戸惑い、驚いた一人の生徒が、「この体験を世の同世代の若者たちに伝えたい、だから学校で本を出してほしい」と担任に訴えたことでした。

 「わかってほしい」「自分を認めてほしい」「居場所がほしい」「やり直したい」。不安を抱いて入学した生徒たちが、同級生、先輩、教師、下宿のおばさんなど、北星余市の「大家族」の中で、生きていく自信を取り戻していきます。自分をさらけ出すのは勇気のいること。だから、この本には感動的な言葉がいっぱい詰まっています。傷つき悩んでいる生徒たちの人を見抜く力に驚嘆させられます。

 生徒にとって、北星余市の3年間は、楽しいことばかりではなく、辛いことの方が多いけれど、かけがえのない3年間となります。

 生徒に気づかされ、生徒に「ありがとう」と言う教師たちも素晴らしい。「学校は教師だけでつくるものではない」と言う校長の言葉が印象的です。TVドキュメント等では伝わらない生徒たちの生の声が聴こえてきます。(ふ)  
(教育資料出版会1600円+税)

北海道民医連新聞 2007年12月13日号より
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2007年12月19日

新刊紹介 男性介護者白書 家族介護者支援への提言
津止正敏・斎藤真緒 著

男性介護者白書

考える視点を提供


 男性介護者が4人に1人という時代に入った現在の介護事情を、調査を基にしてまとめています。

 介護に疲れた夫や息子が妻や母親を殺害する事件が相次ぐなど、高齢者介護を巡る殺人や無理心中、虐待が後を絶ちません。痛ましい介護殺人や介護心中の4分の3を占めるのが男性が介護者のケースです。

 「介護に備えなき」男性が直面する家族介護の実態が、統計と医療生協による聞き取り調査で示されています。妻や母などを介護する男性介護者の生の声が多く紹介されており、リアルな実態がよく分かります。

 しかし、男性介護者の悲惨さを描くのが本書の目的ではありません。男性介護者の登場とその背景、「介護の社会化」と家族介護の問題、介護者支援の方向などについて、多くの問題提起をしており、考える視点を提供してくれます。

 介護の仕事に携わる人々はもちろん、世の男性諸氏に是非読んでもらいたい一冊です。  (斎藤浩司)
 (かもがわ出版・2000円+税)

北海道民医連新聞 2007年11月22号より
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2007年11月16日

新刊紹介 蜜蜂の家 加藤幸子著

蜜蜂の家

すがすがしい読後感

 たまに青春文学はいかがでしょうか。時は現代、舞台は信州とおぼしき高原の養蜂場。21歳の理枝は、同棲していたリュウが親友の由美の元に去ったのを機に、東京の会社を辞め、母親の反対を振り切って、N町の養蜂場「蜜蜂の家」で働くことになった。

 リストカットの傷を持つシングルマザーの経営者・貴勢則子、ぶっきらぼうだけれど蜂への情熱は人一倍の元暴走族のゲンタ、摂食障害で心を閉ざしている同僚のアケミなど、一風変わった人たちに囲まれた職場で、理枝の新しい生活がはじまった。

 自然の中で数万匹のミツバチとの共生。養蜂助手の仕事は過酷だが、「自然と人間と生活」を日々新たに発見していく。閉ざされていた理枝の世界が少しずつ花開きはじめる。

 いつしか「灰にならない記憶」が呪縛から生きているあかしに変わっていき、物語は、ニューヨークで画家をめざす則子の息子ジョージとの新たな恋の予感へと続いていく。

 作者は札幌生まれの芥川賞作家・加藤幸子さん。1936年生まれとは思えないみずみずしい感性、映像を視るように情景が浮かんでくる文体。すがすがしい透明な風が身体の中を通り抜けたような読後感を味わいください。   (ふ)
 (理論社1500円+税)

(北海道民医連新聞2007年11月8日号より)
ラベル:新刊紹介 勤医協
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2007年11月12日

もうガマンできない!広がる貧困 宇都宮健児ほか

もうガマンできない!広がる貧困

胸衝く当事者の叫び


 今年の春、「もうガマンできない!・広がる貧困−人間らしい生活と労働の保障を求める3・24東京集会」が開催されました。

 本書は、集会での当事者の発言と、更に広く集めた当事者の声に、貧困の諸問題に関わる専門家が論点と提言を書き添えています。当事者17人、論点執筆者10人、編者3人、総勢30人による共同の書です。

 派遣労働者、生活困窮フリーター、過労死被害者遺族、多重債務者、シングルマザー、DV被害者、障害者・病者、高齢者、ホームレス、ネットカフェ難民、生活保護利用者など、様々な立場の当事者が勇気を出して貧困の実態を告発しています。

 世界第二の経済力を誇る日本で貧困層が増えている要因は、労働分野における規制緩和=非正規雇用化の推進です。この状況のなかで、社会保障が機能せず、「自己責任論」が強調されています。論点執筆者の一人、雨宮処凛さんは「貧乏も、職がないのも、生きづらいのも、決して『自己責任』ではない」と叫ぶ様に書き綴っています。

 「3・24東京集会」は憲法13条の幸福追求権と憲法25条の生存権をよりどころに「反貧困」のたたかいを宣言しました。まずは17人の当事者の声をお聴きください。
(ふ)(明石書店1300円+税)

(北海道民医連新聞2007年10月25日号より)
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2007年10月30日

新刊紹介 世界がキューバ医療を手本にするわけ 吉田太郎著

世界がキューバ医療を手本にするわけ
カリブの小国は医療大国

 「ベネズエラの貧困地区にキューバから3万人の医師が入り、医療活動を行っている」。信じがたい、驚きの情報であった。話題の映画「SiCKO」では9・11の救援活動を行った呼吸器疾患の元消防士がアメリカでは治療を受けられず、ハバナ病院で最新の医療を無料で受け、感慨にふけるシーンが強烈であった。

 そのキューバの医療のすごさを、現地の丹念な取材を通じて明らかにしているのが本書である。平均余命から乳児死亡率までアメリカを追い抜き、ワクチンやインターフェロン開発、がん治療から心臓移植までWHOも公認する総合的医療展開をすすめるキューバ。特筆したいのが、援助地の医療支援の強化と医師養成を目的に設立された「ラテンアメリカ医科大学」だ。27ヵ国から16000人もの学生が学び、中南米・アフリカの医療に大きく貢献している。こうした国際連帯はカストロが指導した革命思想を下支えとしている。

 その論理もグローバル経済化、高齢化の進展で「風化」してきていると言われるが、「持続可能な福祉医療社会」の実現をめざして、したたかに営まれるカリブの小国キューバの医療は、日本の医療のあり方、民医連の医療活動の今後に大きな示唆を与えてくれる。良書である。(誠)
(築地書館・2000円+税)

(北海道民医連新聞2007年10月11日号より)
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2007年10月14日

新刊紹介 母と子でみる 戦争体験 刻む

戦争体験 刻む
靖国史観への痛烈な批判

 「札幌郷土を掘る会」が十年に渡って収集した戦争の被害・加害体験、31人の貴重な証言集です。

 弾圧・拷問を受けた朝鮮人、南京大虐殺の加害者、シンガポールで10万人虐殺を目撃した華僑、軍の任務で慰安所の運営に携わった人、強制連行され山中で逃亡生活をしていた中国人、朝鮮人強制連行に関わった人、集団自決で家族を銃で撃ち殺した人、等々。

 道民医連の猫塚副会長のお母さん、いつくしみの会初代理事長の桑原一さんも証言者として登場します。

 故人となられた証言者もいますが、いま「語り部二世」が戦争体験を引き継いで活動しています。

 太平洋戦争で2000万人のアジアの人が犠牲になりましたが、殺された多くの人は戦闘員ではなく子どもを含む無辜(むこ)の民でした。本書は「大東亜戦争はアジア解放の戦争」「南京虐殺はなかった」「従軍慰安婦は強制ではない」「集団自決に軍の関与はない」とする靖国史観への痛烈な批判の書です。

 「戦後レジームからの脱却」を叫んだ安倍内閣の崩壊には、歴史の証言を地道に積み重ねた運動の力も預かっていると思われます。事実は重く、読み進めるには辛さも伴いますが、証言者の計り知れない辛さを思うと、ぜひ読んでもらいたい一冊です。(ふ)
(草の根出版会2200円+税)

(北海道民医連新聞2007年9月27日号より)
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2007年09月23日

映画紹介 SiCKO

マイケル・ムーア監督

北海道民医連新聞2007年9月13日号より。1.27MB(02:47)


民医連への贈り物

 銃社会米国にめすを入れた「ボウリング・フォー・コロンバイン」、ブッシュ政権をこき下ろした「華氏911」に続く、ドキュメンタリー映画監督 マイケル・ムーアの最新作。今回のターゲットは米国の医療保険制度です。衝撃と怒り、笑いと涙、感動と勇気。とにかく忙しい映画。2時間があっという間に過ぎます。 
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2007年09月18日

新刊紹介 誰が日本の医療を殺すのか 本田宏著

誰が日本の医療を殺すのか
厚生省のうそを告発

 医療現場から日本の医療の現状と問題点を様々に指摘する本書は、たたかいの格好のテキストです。著者は、済生会栗橋病院副院長兼外科部長、医療制度研究会の代表理事。

 先頃、奈良県で妊婦が救急車内で死産する事件が起きましたが、高齢者医療、救急医療、産科医療、小児医療など、日本の医療崩壊はとどまるところを知りません。04年からの卒後臨床研修制度が引き金となって全国で病棟の縮小や閉鎖が相次ぎ、勤務医の「立ち去り」が加速しています。その原因が政府の医療費抑制政策にあることが、諸データを駆使した説得力ある記述で解説されています。

 日本の医療費は先進国の中で最も低く、一方で患者負担は最も高い。生命を大切にしない政策が続けば、医療ばかりか日本が崩壊すると警告しています。

 必要なことは医療費と医師を増やすことです。医師や看護師の増員は、団塊の世代が70代となり医療需要が爆発的に増える時までには「まだ間に合う」、日本の明日の医療について絶対にあきらめないと、「闘う医療界のスポークスマン」であり続ける筆者の決意は悲壮ですが、医療者として共感できます。

 11月17日に北海道民医連が呼びかけて本田医師の講演会が行われます。是非お聴きください。  (藤) (洋泉新書・780円+税)

(北海道民医連2007年9月13日号より)
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2007年08月28日

映画評 夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国。画面をクリックするとOFFICIAL SITEに飛びます。

北海道民医連新聞2007年8月23日号より。1.07MB(02:20)


原爆への静かな怒り


 第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した、こうの史代の同名コミックの映画化です。
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新刊紹介 がんとどう向き合うか 額田勲著

がんとどう向き合うか 「共存」の道筋を模索 

 脳死問題や終末期医療など、生と死の問題を問い続けてきた臨床医の著者が、自らのがん体験を踏まえて 「がんとの共存」を提起しています。

 平均寿命が延び、今やがんは高齢者にとってありふれた病気です。私たちの医療・介護の現場でも「がんとの共存」を抜きに日々の業務は成り立ちません。本書は、今日的ながんをめぐる諸相を、医療者の側、患者の側の両面から程良く解き明かしており、介護分野の職員も含めて全民医連職員の必読書ともいえる内容になっています。
 
 著者は、がんをめぐる全体状況を素描しながら、再発、再手術を繰り返し、人生の最期で壮絶な闘いに挑む治療に対し「もう少し、穏やかな死への過程はあり得ないのか」と疑問を投げかけています。今後、議論が求められる提起です。

 著者はこの4月から施行された「がん対策基本法」にもふれながら、「患者本位」のがん情報の収集と公開、がんをめぐる地域医療ネットワークづくりの提唱など今後のがん対策にも言及し、生と死に関わる患者と家族の悩みに向き合うために、相応の診療報酬の保障を求めています。

 また、道民医連前会長のがんとのたたかいを「がんとの共存」の一事例として紹介し、前向きに評価しています。(誠) (岩波新書・740円+税)

(北海道民医連新聞2007年8月23日号より)
posted by kin-ikyo at 11:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 新刊・映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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