
「生き残り」という言葉が普通に使われる時代です。曰く「国際競争に生き残れ」「生き残る病院になるために」…。著者はいいます。「1929年の世界恐慌からの回復過程で、生き残りをかけた競争があおられ、結局は世界大戦という破局を招いた」 (「はじめに」)。
この 「生き残り」 に対する言葉として著者が提案するのが「分かち合い」です。「幸福は奪い取るものではなく、分かち合うものだから」 と。
新しい社会のビジョンとして、「分かち合い」を提案する著者が、それを現実のものとするための財政と社会保障のあり方を提示したのが本書です。「社会の中での分かち合い」「コミュニティの中での分かち合い」「家庭内での分かち合い」 −それぞれが、スウェーデンなどの例を引きながら、具体的に提案されています。
「分かち合い」は、上から作られるものではなく、その社会の構成員全体が行動を共有しなければすすみません。「孤立・分断から、連帯・共同へ」、そして、「奪い合い」を「分かち合い」 へ。私たちがすすむべき道を考えるうえで、多くのヒントを与えてくれる1冊です。(晃)(岩波新書・720円+税)
(北海道民医連新聞 2010年5月13日号より)