

厚賀診療所がある日高周辺は、人口減少と高齢化に悩む地域です。診療所は60年にわたり住民の健康と医療を守ってきました。「この地域でくらしたい」と願う90歳代の夫婦の事例を紹介します。
Tさん夫婦は、夫が96歳で要介護2、主な病歴は高血圧症。妻は94歳で要介護1、主な病歴は両膝変形性膝関節症です。厚賀診療所から車で30分ほど離れた山里に二人で住んでいます。
月1回の定期受診は、診療所からの送迎バスを利用しています。妻はデイサービスを月2回利用しています。毎日、妻は食事の支度や掃除などの家事、夫は自宅用の畑作りと薪拾いなどをしています。それ以外の外出は、ほとんどありません。
たまに遠方に住む息子夫婦が、買い物の支援を行ってくれています。日常必需品や食料品は月2回、30分ほど離れた厚賀町にある農協ストアヘ電話注文して届けてもらっています。
北海道は現在、中心都市である札幌への人口一極集中によって、地方が疲弊している状態です。Tさん夫婦は過疎地域という条件の中で、何故これまで2人で生活し続けられたのでしょうか?
「2人で居るうちは、できるだけ子どもたちには迷惑をかけたくない」という思いと、送迎などの支援により、慢性疾患を継続して管理できていることで、大きな病気を未然に防いでこられたことにあると思います。
加えて地域性として北海道のなかでも日高地方は気温が氷点下でも、雪が少なく比較的住みやすいこともあります。
しかし、自宅前の小高い丘を越えなければ郵便局にも行けません。歳を重ねるごとに、生活面での不自由が増えてきました。
公共の足であるバスは、自宅から離れた場所にしか停留所が無く、利用できません。現在、私たちは、小型バスで各住民宅の玄関まで走る地域密着型で住民目線の福祉バスのようなものを検討するよう、自治体に働きかけています。
Tさん夫婦は、口ぐせのように「厚賀診療所は来年もまだあるよね」と私たちに言います。診療所を信頼し、無くなっては大変だとの思いから出る言葉に応えていきたいです。
住み慣れた地域で暮らし続けてもらうため、私たちにできることを考え、支援し続けたいと思います。(厚賀診療所 看護師 山下明美)
(勤医協新聞2009年12月11日号より)
ラベル:高齢者夫婦