2009年11月16日

健康ウォッチ 成人病胎児期発症説のはなし

岡田靖所長

■定説となったバーカー説

「生活習慣病」、すっかり耳慣れたことばになりました。遺伝素因に加え過食や運動不足といった誤った生活習慣が発症や進行に関連する疾患で、生活習慣の改善が重要であるとされます。主として中年以後に発症するので以前は「成人病」と呼ばれていました。メタポリックシンドロームや高血圧、2型糖尿病などが代表的な病気です。

その生活習慣病の素因が実はその人の胎児期や乳幼児期に作られることが判明しています。「素因」とは病気にかかりやすい素質(体質) のことです。

最初にこの説を発表したのは英国のデヴィット・バーカー博士です。出生体重と心筋梗塞による死亡率の関連を検討し、出生体重が小さくなると死亡率は上昇し、巨大児でも同様にリスクが上昇すると1986年に報告しました。胎児期・乳児期に低栄養または過栄養の環境にさらされると成人病の遺伝素因が形成され、その後の生活習慣によっては成人病が発症する、というのがバーカー説です。その後多くの疫学調査や実験研究で証明され、いまや定説となりました。

■「小さく産んで大きく育てる」は誤り?

なんらかの原因で母親の胎内で胎児が低栄養状態になったとします。胎児は大事な脳を守るため筋肉や肝臓で「インスリン抵抗性」という状態を作り出し、栄養分であるブドウ糖を脳に優先的に供給する体質にします。その分胎児の体重は減り、低出生体重で産まれてくることになります。胎内で作られたインスリン抵抗性は産まれたあとも持続するため、生後の栄養豊富な環境では逆に肥満や2型糖尿病を招きやすくなるのです。また胎内での低栄養はネフロン (腎臓の機能と構造上の単位) の数を減らすため、高血圧の発症率をあげるという報告もあります。胎内低栄養で産まれた場合、出生後の副腎皮質ホルモンの基礎値が高くストレスで過剰な反応を示すことも報告されています。

生活習慣病に限らず、肺疾患や行動異常、乳癌など他の様々な疾患についても低出生体重との関連が想定され、その原因の一部が受精期・胎児期・乳児期までさかのぼるという研究や報告が出ています。

これらの原因は、遺伝子そのものの変化ではなく、胎内環境によって遺伝子の発現の仕方がかわるためとされています。胎内環境と生後の環境の「ミスマッチ」が病的な状態を招くようです。生後の豊富な栄養で乳児期に体重が一気に増えた場合にもリスクが上がります。日本には古くから「小さく産んで大きく育てる」ということばがありますが、産まれてくるこどもの健康を守る立場からすると誤りです。

■背景にある問題

日本では1980年頃をピークに新生児の出生体重が減り続けています(図)。先進国では日本だけの現象で、「妊娠しても太りたくない」といった若い女性のやせ願望が背景にあるようです。実際若い女性のやせ比率はこの20年間で2倍に増えています。低出生体重児の比率も増えており、生活習慣病ハイリスク群の子がどんどん産まれている状況で、近い将来には医療だけでなく社会・経済問題に発展することが懸念されます。

また米国の経済学者からは、出生体重の低さと教育水準の低さ・低所得との相関が報告され、貧困の世代間連鎖に出生体重の低いことが関連する、との見解も示されています。

出生体重の推移

■母乳栄養の利点

動物実験では低栄養の影響はその後3世代にわたり持続するとされ、胎内低栄養は世代を超えて影響することが示されています。その世代をまたぐ悪影響を回避する手段として 「母乳栄養」があげられます。母乳は必要十分な新生児・乳児期の栄養で、余分なものは含まれません。胎内で低栄養状態にさらされていた赤ちゃんにとっては人工栄養(ミルク)は過剰な栄養で、胎内環境とのミスマッチを起こしやすいのでしょう。母乳栄養の利点はこの点からも強調すべきだと思います。

私は、月に1回札幌病院の母親教室で以下のような内容を話し、妊娠前・妊娠中・授乳期の母親自身の栄養摂取が想像以上に大切です、と強調します。しかし率直なところ、すでにおなかがふくらんでいる妊婦さんに話しても遅きに失する感を持っています。

■子どもの頃からの健康教育が大切

この「成人病胎児期発症」の考え方は従来の生活習慣病の概念を大きく変えるものだと思います。生活習慣病は本人が悪い自己責任の疾患では決してなく、「生活習慣病」という呼称自体にも疑問が出てきます。

生活習慣病の予防や治療は大人になってからの生活習慣の改善だけでは難しく、こどもの頃からの (次世代に向けての)健康教育がとても重要になります。また、ことさら若い女性のやせ願望を煽るようなメディアの責任も極めて重大だと思います。

学校の食事・栄養教育も重要性を増すでしょう。周産期・小児科医療の現場としては低出生体重児などに対する母乳哺育の強調と指導、乳児健診や外来での肥満傾向の早期発見、生活習慣や栄養の指導が大事になります。

(北海道勤医協友の会新聞 2009年10月01日号より)
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2009年11月05日

前立腺癌

前立腺癌について、鈴木龍弘(勤医協中央病院泌尿器科科長)が3回にわけてお話しします。

81.3MHzFMさっぽろ村ラジオ「健康と医療の広場」2009年10月14日放送。3.16MB(6:53)

81.3MHzFMさっぽろ村ラジオ「健康と医療の広場」2009年10月21日放送。3.59MB(7:50)

81.3MHzFMさっぽろ村ラジオ「健康と医療の広場」2009年10月28日放送。3.67MB(8:00)
タグ:前立腺癌
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